ソレが差し伸べられる先を知っていたからこそ私は君に。
(君だけに)
「おや」
シンドバッドに頼まれた物を届けたその帰り、ふと視線を外へと向けると庭の花に埋もれる金色を見つけた。せっせと何かを作っている様子だが果たして…。ジャーファルはしばし悩んだ末に其方へと足を向けた。
「こんにちはアリババくん」
「っ、ぇ?あ、ジャーファルさん」
「何をしているんですか?」
ジャーファルが声を掛けると弾かれたようにアリババが顔を上げた。驚かせてしまったなと小さく反省しつつ、続けてジャーファルが口を開いた。その質問に対し、アリババがひょいと目の前に何かを持ち上げてみせる。
「これは…見事な花冠ですね」
「新しい花が咲いていたので…アラジンやモルジアナに作って持って行こうかと」
前に作った時、すげえ喜んでくれて…あ、でも勝手に摘んでしまってすみません。
そう言って頭を下げたアリババをジャーファルは微笑ましそうに見た。すぐに頭を上げさせ、それからゆるりとアリババの頭を撫でるジャーファル。そんな行動に軽く困惑するアリババに、ジャーファルが口角を上げながら音を零した。
「もし良ければ私に作り方を教えてくれませんか」
「え、?」
「勿論無理にとは言いませんが」
「あ、いや、違っ…でも時間は大丈夫なんですか?」
「ええ。ちょうど一区切りついたところなので」
そんなジャーファルの言葉に安心したようにアリババは顔を綻ばせ、そうして新たに花を摘んだ。隣に腰を落ち着けたジャーファルは、器用に指を動かすアリババを感心したように見つめる。そんな視線にアリババは僅かに頬を染めた。
「え、っと…ここで茎を巻いて、次の花も同じようにします。あとは好みの長さまで繋げていって、端と端を巻いて繋げば完成です」
スルスルと次々花を繋げていくアリババの手元を観察しながら、ジャーファルも自身の手を動かしていく。しばし黙々と作業し、アリババの花冠が完成した数分後にジャーファルの花冠も完成した。
「…ん、単純なようで意外と難しいですね」
作業こそ単調だが花の選別に茎の長さ、そうして繋げる時の幅や巻き付ける強さなど、結構気を配らなければならない。ジャーファルはアリババの花冠と自身の花冠を見比べ、軽く息を吐いた。
「やはりアリババくんのように綺麗には作れなかったですね」
「そんな、初めてでそこまで出来れば充分ですよ!」
綺麗に配されたアリババの花冠と違って、ジャーファルの花冠は所々寄ったり離れたりし、花自体どこか草臥れた印象を受ける。苦笑するジャーファルにアリババは勢いよく横に首を振った。
「俺なんて最初は力の加減が分からなくて、いっつも茎が千切れてましたし。それに途中で緩んでバラバラになったり、他にも…」
あれもこれもと自分の失敗談を話すアリババに、ジャーファルはじんわりと笑みを上らせた。しばらくしてそんな笑みに気付いたアリババは、また軽く頬を染める。
「アリババくんは本当に優しいですね。…君がそういう子だから」
「、?」
ぽつり、
唐突に落とされた静かな声に、アリババは首を傾げる。ジャーファルはそんなアリババに更に笑みを深め、そうして作った花冠をアリババの頭にそうっと乗せた。
「あ、の」
「君はいつも誰かを想い、誰かのために行動しますよね」
「……」
あの時もあの時もあの時だって。
いつだって。
僅かな風に揺られる花冠は、ただただアリババを飾る。日の射す庭に溢れる花々よりも余程可憐に、強く、鮮やかに。切り取られ隔絶されたような世界を、ジャーファルは穏やかなその瞳に視た。
「そんな君だからこそ、私は…」
ジャーファルが紡ぐ言葉に真摯に耳を傾けるアリババ…そんなアリババの在り様に、ジャーファルはどこか泣き笑いのような表情を浮かべる。そろりと上げられたジャーファルの右手はゆっくりとアリババの頬を撫で、そうして包み込んだ。
「分かりますか?アリババくん」
「……」
「私はそんな君が好きなんです」
(すきなんです)
ぶわり、
一際強く吹いた風に花弁が攫われる。花に囲まれ花に埋もれ、ああなんて麗しくもロマンチックな愛の告白。
目を見開いたまま固まるアリババ。そしてそれを見つめるジャーファル。
切り取られ隔絶された世界の端っこ…そこで紡ぎ返された告白の返事はもちろん当人達だけの秘密、なんて、そんな約束事のお話。
君が持たない優しさを
(与えるのはそう、ぼくの役目)
***
企画「恋愛ディクレア」様に提出致しました。愛の告白がテーマの素敵な企画様です。
…だというのに本当に輪郭があやふやなこんなお話で実に申し訳ないです。
参加させて頂き、大変に光栄でした。主催者の結城様並びに閲覧下さった方に全力の感謝を!ありがとうございます!!
(針山うみこ)